第9章 奥深い白井侑里

高橋遥は拘置所を出た後、しばらく行く先もわからず、空に輝く九月の太陽を眺めていたが、彼女の心は冷え切っていた。

最終的に、彼女は約束していた研修機関に向かうことにした。ビルに足を踏み入れた瞬間、周囲の人々の視線が彼女に集まった。

「見て、あれ稲垣夫人じゃない?どうしてうちの研修機関に来たの?」

「知らないの?稲垣夫人はかつて一流のバイオリンの優等生だったんだよ。内田先生も彼女を弟子にしたがっていたんだ。」

「でもね、彼女は愛を選んで進学を続けなかったんだ。もし続けていたら、きっと声楽の大家になっていただろうに。」

「でもさ、内田先生が帰国するって聞いたよ。稲垣社長が大金をかけて呼び...

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